セッション?(1月4日15:30−17:00)
症例検討―痛みその他の症状緩和
日野原 症状のマネージメントについての症例が7例集まっています。あらすじと問題は何かということを話していただいて、できるだけみなさんの経験からアドバイスをいただきたいと思います。
岡安 井田病院の田口さんから始めていただきましょう。3分でまとめ、7分をディスカッションに予定しております。
〔症例1〕
「最後はここでと決めている。苦しまないようにしてほしい」と願うI氏
川崎市立井田病院緩和ケア病棟田口妙子
●63歳、男性、肺癌、転移性脳腫瘍、腸閉塞
経過
平成8年4月肺癌による転移性脳腫瘍で放射線療法実施、病名転移の告知を受ける。同年9月上腹部痛(胃潰瘍の疑い)でPCU入院。以後自宅療養となるが、同年11月腹痛悪化腸閉塞と診断される。I氏の希望があり、自宅で点滴、浣腸、胃管挿入で経過観察となる。しかし、腹痛強度となり再びPCU入院となる。
入院時「まだ生きていたよ」「死ぬ場所はここでと決めている」と死を受容する言葉が聞かれた。また「苦しまないようにしてほしい」と症状緩和を強く望む。
主訴は、腸閉塞による嘔気嘔吐、腹満腹痛である。検査の結果、十二指腸部に腫瘍が確認された。その後も症状緩和せず胃管から便汁が多量、体動のたび嘔気嘔吐出現する。I氏と話し合いさらにイレウス管が挿入された。それにより両鼻腔が塞がれ、I氏にとっては思いもかけない事態となってしまった。その状況の中、I氏は「とにかく苦しまないようにしてほしい」と念願する。対応として点滴を減らし胃腸液を抑えた。
そのころより「虫が4つか2つ、おばけがいる」等と独語発し、宙をつかむ動作が出てくる。さらに「管はいつ抜けるの」「いつになったら楽になれるの」「生きているのはこんなにつらいのか」とたびたび訴える。これ以上状態改善望めず、催眠剤投与開始する。その数目後意識朦朧の中、消化管出血を起こし死亡する。
この事例は、経過が激しく症状コントロールが困難をきわめれI氏の望む「苦痛のない状態」を与えられなかったことが残念であり、またこの状況での症状コントロールの難しさを痛感した。ただI氏が満足できたことは、納得いくまで自宅で過ごせたということである。
Andrew 胃に直接穴を開けて出す方法、チューブからドレインする方法、または食べ物をとらせないという三つの方法があると思うのですが、在宅で胃から直接ベントする方法はあると思います。
Wendy 腸閉塞の原因はきちんとわかっていたのですか。小腸の十二指腸の閉塞ではチューブを使わないで出すというのは難しいと思います。在宅でこういう症状をもった患者さんをきちんとマネージするには、Andrewが言ったことに加えて、吐き気や嘔吐を制するために皮下のポンプを使う方法があると思います。
Andrew ソメトスタティンのアナログのオクスシオタイドを使って胃液の量を減らすことに成功したという例が英国であるのですが、このケースでは経口で摂取しているのですね。ですから胃液を増やす方向にいっているので状況は複雑だと思うのですが、コルチコステロイドのようなものを輸液で入れるというのはやりましたか。発表者 使っていません。ただ経口摂取も限界がくるというか、患者さんが自分の体で感じ取ってくるものがあって徐々に経口を止めるというようになるのです。その場合に最低の栄養の確保という意味で輸液をしていたのですが、それを減らして少しでも腸液、胃液を抑えるということまでしかしておりませんでした。
日野原 胃液のことが問題になったのですが、多くの場合オーバーバイトレーションになりますね。私は1200kcalでこんなに元気に動いているのですよ。寝たきりの肝臓が悪い患者はそんなに食べる必要がないですね。
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